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仙台高等裁判所 昭和34年(ラ)62号 決定 1959年10月15日

抗告人 田部久三(仮名)

相手方 須藤四郎(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりであり、これに対する当裁判所の判断はつぎのとおりである。

民法九七六条三項は、「家庭裁判所は、遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。」と規定するから、家庭裁判所は、遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得たならば、これを確認しなければならないものである。この確認は、もともと無効な遺言を有効とするものではなく、無効な遺言は確認を経ても依然として無効であることにはかわりなく、ただ、本来有効なるべき遺言もこの確認を経ないときは無効となるに過ぎないものである。すなわち、確認は遺言が遺言者の真意に出たものであることを一応認定するに過ぎないものであつて、遺言の効力を終局的に確定するものではない。遺言の効力の終局的な確定は、当事者に十分な攻撃防禦の方法を講ずる機会の与えられる訴訟手続によつてされるべきものである。

ところで、原審判は、家庭裁判所調査官に証人須藤四郎・川田秋代・中山よしえ、遺言に立ち会つた医師山本義夫、本田勲について事実の調査をさせた上、本件遺言が遺言者の真意に出たものであることを確認したものであることが明らかであつて、右の各事実調査に遺言書なる書面をあわせてみれば、本件遺言は遺言者の真意に出たものであることを一応認定することができ、これに誤りがあるとは認められない。所論の諸事実は右の認定にそわない見解であつたり、確認の審判でされるべきものではないものであつて、さきの認定をくつがえす事由とすることはできない。

よつて、原審判は相当であつて本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤規矩三 裁判官 鳥羽久五郎 裁判官 石井義彦)

(別紙) 抗告の理由

一、本件遺言は遺言者が口授したものではなく、受遺者大畑マリその他が遺言者に対し誘導的に贈与することを要求し、言語を発する能力のなかつた遺言者がただ「うんうん」と言つただけのものであつた。

二、証人中山よしえは遺言者が遺言をしたといわれるときその場に立ち会つていなかつたのみならず、筆記の署名押印は遺言者死亡後の昭和三四年六月二九日に中山よしえの自宅でされた。

三、本件遺言によつて建坪家屋一切の寄贈を受けたといわれる天皇道は宗教法人として岩手県、福島県に存在しないから、天皇道に建坪家屋一切を寄贈するとの遺言は無効である。

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